●日程:1999年11月19日(金) 13:30〜14:30
●場所:ウェスティンホテル・大阪 4F 沙羅の間
●出席者(敬称略)
講師:桂米朝、桂吉朝、小佐田定雄、内藤裕敬
主催者・大阪市市民局:仲 茂彦部長
総合プロデューサーおよび会見の進行:林信夫(21世紀ディレクターズユニオン)
●概要
『舞台芸術ワークショップ・大阪1999』の開催に先立ち、11月19日(金)、紙誌の文化・芸能記者に集まっていただいて、大阪市内のホテルで記者会見を行った。
大阪市市民局の仲部長による主催者あいさつの後、『上方落語ワークショップ』の講師である桂米朝、桂吉朝、両師匠が抱負を、ワークショップの構成を担当する落語作家の小佐田定雄が内容について述べ、次いで『演劇人ワークショップ』の講師を務める南河内万歳一座の内藤裕敬が、タイトルに「演劇人」とつけた思いを含めて、ワークショップへの抱負を語った。
質疑応答も含めて、講師陣は終始、自然体のままで、「ワークショップに参加する全員が、受講する人や見学する人に関わらず、楽しめ、また有意義な時間を共有できるように取り組みたい」という抱負も、和やかさをもって語られた。
●進行
2.講師あいさつ
4.写真撮影
●内容
仲部長 大阪市は、大阪が新しい舞台芸術を世界に発信する拠点となる劇場として、中之島に、舞台芸術総合センター(仮称)の建設を計画しており、この計画を推進するために、プレ事業として、平成7年からワークショップを開催しています。今回は5回目です。
これまで、演劇、ミュージカル、歌舞伎などさまざまなジャンルのワークショップに取り組んできました。これまでに、全国各地から2,400名のご応募をいただき、その中から300名を超える皆さまがたに受講していただきました。
今年は、人間国宝の桂米朝師匠をはじめ、米朝一門の皆さまがたに講師をお願いする「上方落語のワークショップ」と、小劇場界を代表する活躍をしておられる、南河内万歳一座の内藤裕敬さんにお願いする「演劇人ワークショップ」の2本に取り組みます。今年も、これまでにも増して、すばらしい、熱のこもったワークショップになるように取り組んでいきます。
林プロデューサー 舞台芸術総合センター(仮称)を作るに当たっては、前市長、また磯村市長から、劇場のようなハードウェアを先につくる推進方法ではなく、様々な形でソフトウェアを積み重ねた上に、一つのハードウェアができあがるようなソフト先行型のプロジェクトを望むという、直接のお言葉をいただいております。
資料1ページは概要です。このワークショップが、受講生だけでなく、プロセスを見学していただいくことで、より広く市民の方たちに開放されていることが分かると思います。
5ページは今までの受講者についてまとめました。大阪市の事業でありながら、全国各地から応募が寄せられており、大阪市が、このプロジェクトを、文化都市として広く内外に示しうるものにしたいという思いを持って続けている事業であることがお分かり頂けると思います。
米朝 「ワークショップ」とは、わたしには、あまり馴染みのない言葉ですが、昨年の『舞台芸術ワークショップ・大阪1998 市川猿之助歌舞伎ワークショップ』のように、今度は、上方落語を体験してもらうということです。
落語には、お芝居のような派手な見栄えはありませんが、上方落語の特徴である、お囃子や鳴りものの意味や演出についてのお話は、かなりなボリュームの内容になると思います。それぞれの日に200人ずついらっしゃる見学者にも楽しんでもらえる、面白い内容にしたいと思います。
吉朝 一般の人に、落語への興味を持ってもらうきっかけをつくるのに、落語家がテレビや芝居などに出て、まず「人」に興味を持ってもらうことがあります。きっかけづくりには、いろいろな方法がありますが、直接「落語」というものを分解してみて、改めて「落語」に興味を持ってもらう方法もあると思います。落語は「しゃべりの芸」「見せる要素」「音楽の要素」など、いろいろな要素があります。
皆さんが、興味をもって参加してくださるように、これから、内容や進め方を検討したいと思います。
小佐田 落語は、ちょっと見た目には、すぐにできるように思われる芸ですが、逆に、ただしゃべるだけの芸で、一つの世界を作りあげるのですから、むしろ、見ているだけでは伺い知れない部分があります。きっと魔法があるに違いありません。その部分を分かりやすく見てもらおうというのが、今回のワークショップです。
参加者には、和服を着るという一番最初の部分から始めて、おしゃべり、動き、音楽などを体験してもらおうと考えています。そして、それを見ているお客さんもが「面白い」と感じていただけるようなものにしていきます。「面白い」「面白くてためになる」「また落語を聞きたいな」「以前と聞き方が変わったな」と感じていただけるような内容にしたいと思っています。
内藤 僕はあまりワークショップをやりません。あまり教えることに熱心ではないというか・・・劇団員だけで精一杯というのが正直なところです。
僕のワークショップでは、役者にしても演出にしても、最初に台本を書きます。戯曲の構造などを分かりあうところから始めるのです。途中で構いません。そして、未完成の中にある面白い要素をみんなで拾っていき、発展しそうなものにお芝居の稽古形式で取り組みます。そういう中に、役者の訓練、発想法、イメージトレーニングも入ってくるのです。
基本的に「演劇人」です。その対象が、役者、台本を書く人、演出など、どのセクションに身を置くかを別にして、全員が「演劇人」でないと方向性が保てないと思うのです。役者にしても、こういう芝居をやっていくという「演劇人」の意識が薄いと、仕事の取捨選択もできません。戯曲を書くのも、舞台に関わらない独立した読みとしてでなく、演劇の中に位置するものとして考えます。演劇としての台詞であり、ト書です。人が演じ、肉声でしゃべることを前提に、演劇だからと選んだ描写とすることは、演劇を俯瞰して戯曲を書くことで、ただ、ある種の文学としての戯曲を淡々と綴ることとは、文体や構造、完成度が違ってくるのです。そういう認識が頭の片隅にあると、少しずつ経験を重ねて、自分の方向性が明確になっていくと思います。
今は、指向性が定まれば、もっといいものを作るだろうにも関わらず、才能が無作為に放射しすぎていることもあるように思います。ワークショップには、無駄遣いする前に、「演劇人」を認識する手がかりとできそうなことを、組み込みたいと考えています。
Q1 参加料は?
林プロデューサー 参加料は両ワークショップとも無料です。
素晴らしい講師を招くにあたって無料であることには、異論もあるかと思いますが、現状では、参加料無料です。ただし、落語のワークショップで足袋が必要といった、受講にあたっての実費は自己負担です。
Q2 吉朝さんのオーディションは何をする予定ですか。
吉朝 オーディションに先立って書類選考がありますが、その応募用紙を見たり、応募してくる方々の意図や、受講に対する希望をくみ取ってから内容を検討します。
応募者の落語経験の差なども考える必要があるかもしれませんし、幅広い参加者の方々の楽しめるワークショップにしたいと思います。
林プロデューサー 広報に始まって、まず応募書類を集めますが、まず書類選考、その後オーディションを経て、ワークショップを受講する10人を先行する行程を考えています。落語のワークショップだからといって、主催者側としては男性に限っているわけではありません。選考の過程は全て吉朝師匠におまかせします。
選考のプロセスは内藤さんの場合も同様で、こちらは内藤さんにおまかせします。
Q3 上方落語ワークショップの場合、この3日間を終えると会社の宴会で一席やれるという期待を抱く人もいると思うのですが。
吉朝 宴会芸というものは、また別のものと考えてください。
ワークショップでは小咄も扱いますが、逆に難しいものです。いずれにせよ、あちらを向いたりこちらを向いたりといった仕種の一つ一つの意味などは分かってもらえるものにはできると思います。
Q4 昨年に開催した「舞台芸術ワークショップ1998・大阪 市川猿之助 歌舞伎ワークショップ」のように、最終日に、受講生一人ずつ、何かの演目を披露するのですか。
吉朝 そのつもりで始めますが、ビジュアル的に観客を楽しませる要素が歌舞伎ほどに豊かではないので、お客さんを退屈させないよう工夫する必要があると考えています。
Q5 教える内容は寄席囃子とかも・・・
吉朝 教えるのが、お囃子とかも含めて、ということです。それらを含めて何かできるかもしれません。
Q6 一般の見学者は、講師が舞台の上で講義し、受講生が受けているのを、観客席から見学するという形になるのでしょうか。
林プロデューサー 基本的にそういうスタイルになりますが、今後検討を加えます。
Q7 『演劇人ワークショップ』の講師は内藤さんお一人ですか。
内藤 手伝ってはもらうと思いますけれど。基本的には一人です。
Q8 最終的には、何か短い作品を作りますか。
内藤 作品を作るつもりはありません。でも、成りゆき次第でわかりません。
Q9 全ての日程が平日の午後ですが、主に想定する対象者は大学生ですか。
林プロデューサー 現状としては、生活のためにいろいろな仕事に就いているけれども、舞台人として生きていく夢を持っているといった人が、中心となると考えています。
Q10 上方落語のワークショップで、米朝師匠が直接ご指導することは考えていますか。
米朝 初日に少しお話をして、3日目に一席持つ予定です。
初日の話についてはまだ構想中ですが、『聞き方』についてなどはどうかと思っています。
小ぢんまりした『寄席』が寄席としてあった昔には、例えば、噺家の方は噺家の方で踊りなどをたしなんで、お客さんのお目にもかける機会があり、そうしたことが噺でも端々の仕種にあらわれていたのが、このごろでは、そういう関係をもつことがなくなっています。そういう聞き方もあるのですよといったことを、おしゃべりしたいと思っています。
2日目は、普段は陰にある鳴りものが、表にさらけ出されますから、変化があって面白いものになるだろうと思います。